1.身体拘束の廃止に向けて
障害者虐待防止法では、「正当な理由なく障害者の身体を拘束すること」は身体的虐待に該当する行為とされています。障害が有無に関わらず全ての人々には自分自身の意思で自由に行動し生活する権利があります。一方で、身体拘束とは、障害者の意思にかかわらず、その人の身体的・物理的な自由を奪い、ある行動を抑制または停止させる状況であり、障害者の能力や権利を奪うことにつながりかねない行為です。 身体拘束は、何よりも本人の尊厳を侵害することです。そして、関節の拘縮や、筋力や心肺機能、身体的能力の低下、褥瘡の発生等の身体的弊害、意思に反して行動を抑制されることによる不安や怒り、あきらめ、屈辱、苦痛といった精神的な弊害があります。このことは、家族にも大きな精神的負担をかけるとともに、職員等は自らの支援に自信がもてなくなり、モチベーションの低下や支援技術の低下を招くなどの悪循環を引き起こすことになります。 身体拘束の廃止は、本人の尊厳を回復し、悪循環を止める、虐待防止において欠くことのできない取組だと考えます。
①車いすやベッド等に縛り付ける。
② 手指の機能を制限するために、ミトン型の手袋を付ける。
③ 行動を制限するために、介護衣(つなぎ服)を着せる。
④ 支援者が自分の体で利用者を押さえ付けて行動を制限する。
⑤ 行動を落ち着かせるために、向精神薬を過剰に服用させる。
⑥ 自分の意思で開けることのできない居室等に隔離する。
2 やむを得ず身体拘束を行うときの留意点
「障害者の日常生活及び社会生活を総合的に支援するための法律に基づく指定障害者支援施設等の人員、設備及び運営に関する基準」等には、緊急やむを得ない場合を除き身体拘束等を行ってはならないとされています。さらに、やむを得ず身体拘束等を行う場合には、その態様及び時間、その際の利用者の心身の状況並びに緊急やむを得ない理由その他必要な事項を記録しなければならないとされています。 緊急やむを得ない場合とは、支援の工夫のみでは十分に対応できないような、一時的な事態に限定されます。当然のことながら、安易に緊急やむを得ないものとして身体拘束を行わないように、慎重に判断することが求められます。具体的には「身体拘束ゼロへの手引き」(厚生労働省「身体拘束ゼロ作戦推進会議」2001年3月)に基づく次の要件に沿って検討する方法等が考えられます。 ただし、肢体不自由、特に体幹機能障害がある利用者が、残存機能を活かせるよう、安定した着座姿勢を保持するための工夫の結果として、ベルト類を装着して身体を固定する行為は、「やむを得ない身体拘束」ではなく、その行為を行わないことがかえって虐待に該当するため留意が必要です。
(1)やむを得ず身体拘束を行う場合の3要件
やむ得ず身体拘束を行う場合には、以下の3要件を全て満たす必要があり、その場合であっても、身体拘束を行う判断は組織的にかつ慎重に行います。
① 切迫性
利用者本人又は他の利用者等の生命、身体、権利が危険にさらされる可能性が著しく高いことが要件となります。切迫性を判断する場合には、身体拘束を行うことにより本人の日常生活等に与える悪影響を勘案し、それでもなお身体拘束を行うことが必要な程度まで利用者本人等の生命又は身体が危険にさらされる可能性が高いことを確認する必要があります。
② 非代替性
身体拘束その他の行動制限を行う以外に代替する方法がないことが要件となります。非代替性を判断する場合には、まず身体拘束を行わずに支援する全ての方法の可能性を検討し、利用者本人等の生命又は身体を保護するという観点から、他に代替手法が存在しないことを複数職員で確認する必要があります。また、拘束の方法についても、利用者本人の状態像等に応じて最も制限の少ない方法を選択する必要があります。
③ 一時性
身体拘束その他の行動制限が一時的であることが要件となります。一時性を判断する場合には、本人の状態像等に応じて必要とされる最も短い拘束時間を想定する必要があります。
(2)やむを得ず身体拘束を行うときの手続き
① 組織による決定と個別支援計画への記載
やむを得ず身体拘束を行うときには、個別支援会議等において組織として慎重に検討・決定する必要があります。この場合、管理者、サービス管理責任者、児童発達支援管理責任者、運営規程に基づいて選定されている虐待の防止に関する責任者等、支援方針について権限を持つ職員が出席していることが大切となります。また、必要に応じて相談支援専門員の同席も検討します。 身体拘束を行う場合には、個別支援計画に身体拘束の態様及び時間、緊急やむを得ない理由を記載します。これは、会議によって身体拘束の原因となる状況の分析36 を徹底的に行い、身体拘束の解消に向けた取組方針や目標とする解消の時期等を統一した方針の下で決定していくために行うものとなります。ここでも、利用者個々人のニーズに応じた個別の支援を検討することが重要となります。
② 本人・家族への十分な説明
身体拘束を行う場合には、これらの手続きの中で、適宜利用者本人や家族に十分に説明をし、了解を得ることが必要となります。
③ 行政への相談、報告
行動制限・身体拘束する場合、市町村の障害者虐待防止センター等、行政に相談・報告して、行動制限・身体拘束も含めた支援についての理解を得ることも重要です。行動障害のある利用者支援の中で、事業所で様々な問題を事業所で抱え込んでしまうことがあります。事業所で抱え込まないで、関係する機関と連携することで支援について様々な視点からのアドバイスや情報を得ることができます。行政に相談・報告することで、支援困難な事例に取り組んでいる実態を行政も把握できることになります。また行動改善の取り組みの進捗についても定期的に報告することで、組織的な行動改善に向けた計画的に取り組みの推進を図ることに繋がります。
④ 必要な事項の記録
また、身体拘束を行った場合には、その態様及び時間、その際の利用者の心身の 状況並びに緊急やむを得ない理由等必要な事項を記録します。 なお、「障害者の日常生活及び社会生活を総合的に支援するための法律に基づく指定障害者支援施設等の人員、設備及び運営に関する基準」では、以下のように定められているため、必要な記録がされていない場合は、運営基準違反に問われる場合があります。
3.身体拘束等の適正化のための体制
①身体拘束等の適正化委員会の設置及び開催
(1)身体拘束の廃止に向けて身体拘束適正化検討委員会(虐待防止等委員会内)の設置
・統括管理者を責任者とし各事業所の児童発達支援管理責任者・各事業所の指導員1名・第三者委員
1名・各事業所の保護者代表1名を委員とする。
・委員会は全職員への指導を行う。
(2)身体拘束等適正化委員会の開催
・委員会の開催は年1回以上の開催とし、その他事案発生時には緊急に委員会を招集する。
②身体拘束等の適正化のための研修会
(1)第三者委員参加による研修(年1回)の実施
(2)新入社員(新任者)に対する研修の実施
(3)外部研修等への参加(報告)
③やむを得ず身体拘束を行う場合
(1)委員会の実施
緊急性や切迫性によりやむを得ない状況になった場合、委員会を開催し、
1.切迫性
2.非代替性
3.一時性の三要件
の全てを満たしているかどうかについて評価、確認する。 また、当該利用者の家族等と連絡 をとり、身体的拘束実施以外の手立てを講じることができるかどうか協議する。上記三要件を満たし、身体拘束以外の対策が困難な場合は、拘束による利用者の心身の弊害や拘束を実施しない場合のリスクについて検討し、その上で身体拘束を行う判断をした場合は、「拘束の方法」「場所」「時間帯」「期間」等について検討し確認する。また、早期の段階で拘束解除に向けた取り組みの検討会を随時行う。
(2)利用者本人や家族等に対しての説明
身体拘束の内容・目的・理由・拘束時間又は時間帯・期間・場所・改善に向けた取り組み方法を詳細に説明し、十分な理解が得られるように努める。個別支援計画書に身体拘束を行う可能性を盛り込み、本人または保護者に同意を得る。行動制限の同意書の説明をし、同意を得る。また、身体拘束の同意期限を超え、なお拘束を必要とする場合については、事前に家族等と締結した内容と 方向性、利用者の状態などを確認説明し、同意を得た上で実施する。
(3)記録
記録専用の様式を用いて、その態様及び時間、心身の状況・やむを得なかった理由などを記録し共有するとともに、身体的拘束の早期解除に向けて、拘束の必要性や方法を逐次検討する。また、実施した身体的拘束の事例や分析結果について、処遇職員に周知する。なお、身体的拘束検討・実施等に係る記録は5年間保存する。
(4)拘束の解除
(3)の記録と再検討の結果、身体的拘束の三要件に該当しなくなった場合は、直ちに 身体拘束を解除し、利用者・家族等に報告します。
④指針の開示
この指針は、当WEBサイトに公表し常時閲覧が可能な状態とする。
施行 令和4年4月1日